『オリオンの悩み』

冬空を見上げて

妹が言った

「あそこにリボンの星がある」

姉が応じてこう言った

「あれは蝶々さんなのよ」

弟はじっと見ながら

「お椅子みたい」

とこたえた

三人の子ども達が楽しそうに夜空を見上げている

わたしは彼らになんと言おう

やがて姉がわたしを呼んで

「お父さん、あの星のお名前は何?」

と聞いた

わたしは「オリオン座だよ」と答えていた

子ども達はその名を聞くと「オリオン座だ、オリオン座だ」と呼び始めた

わたしはこうして彼らに知識を与え

彼らのなにかを奪っているのだ

 


 

『墓標』

 クリスマスの朝

娘に果樹の苗木が贈られていた

喜ぶ娘は庭を手入れし

その苗木を植えた

雪がちらつく冬の朝

娘が悲しそうにつぶやいた

「あの木はもう死んじゃったかも」

苗木についてたわずかな葉はすべて落ちてしまっていた

数本伸びていた細枝も

娘が触れるとポキッと折れた

折れた枝は枯れていた

茶色く乾いた細い棒

小鳥の骨のようなその小枝を

娘はかわいそうにとにぎりしめた

いのちの証しが見えるなら

それは庭に植わった果樹

新たないのちを生みだす希望の木と呼べるだろう

だが今そこにあるのは

地に挿された棒にすぎない

そこにはいのちの希望は見えない

灰色の空 乾いた冷たい風吹く中で

その前に立つ娘は

まるで墓標の前に立つ葬り人のようだった

娘よ

そこに希望はない

それはいのちを生みださない

それはやがて倒れてしまう棒なのだ

暖かな春の朝陽の射す候

墓標は新芽の蕾をいくつも現した

誰よりも先に

娘だけがそのいのちの証しを見つめていた

 


 

『あの山の頂上に』

あの山の頂上に立って世界を見渡したい

でも、そこまで運んでくれるバスは無い

そこまで登る時間も無い

そこに行くためのお金も無い

そこに登れる体力も無い

誰かがヘリコプターでそこに連れて行ってくれればなあ

誰かがお金を出してくれればなあ

そこに行っても困らないだけのお金があればなあ

登るだけの体力をつけて

少しづつでもお金を貯めて

自分の足で一歩づつ歩めば登れる山でも

結局、僕はそれをしない

頂上に立つ人を羨み、妬み

僕をそこに運んでくれない誰かに対する文句を言いながら

僕は今日も、地べたに座り込んで山を見あげる